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書評: 『 朗読者 』 ベルンハルト・シュリンク



この本を手に取った時、どこかで聞き覚えた感じを受けた。あとから調べてみたら、2000年ぐらいに日本でも随分話題になったという事だったが、自分の場合はそれが理由ではなくて、先週見たケイト・ウィンスレットのインタビューだった。去年、彼女がアカデミー主演女優賞を取った 『 The Reader (邦題: 愛を読むひと) 』 の原作だと直感するものがあった。

ここしばらく、教科書や参考書以外ほとんど日本語で書かれたものを読んでいない (というより、読まないようにしているといった方が正確かもしれないが) ので、ちょっと躊躇したのだが、ブックオフの53円という値段につられて、つい買ってしまった。ドイツの作品を読むのは、ミヒャエル・エンデ以来だろうか、などと思いながら、そのあとの2時間、駅前のミスドに入り、この本を読むことになった。

最近、心が枯れてしまっているように思うことが多かったので、このシュリンクの作品はまるで染み入るように僕の身体に入っていった。物語の中で明かされる秘密と結末は、筋を追ううちに予想がついたが、実際に活字で読む段になると、ひどく心が痛くなりページをめくるのに勇気が必要なほどだった。しかし、読後にひどく落ち込んだかと言うとそうではなく、むしろ感動とある種の充実感を覚えた。

物語そのものは3部構成になっていて、主人公ミヒャエルの少年期、青年期、そして壮年期と話は進むのだが、彼が親と子ほども歳が離れている女性ハンナとの愛欲に溺れていくところから始まり、図らずも2人が数奇な運命に巻き込まれていくという形で進んでいく。その中で次第にハンナの過去が明らかになり、それがもとで彼女は裁判・投獄されることになるのだが、そのような中で2人は2人にしかわからない形でつながっていく、というのがメインのストーリーである。

作品の中で、ハンナは逢瀬の際にミヒャエルにせがんで様々な本を朗読してもらうようになる。貧しい家庭で育った(詳しくは描かれていないが、そう推測される)ハンナは文盲で、それをミヒャエルに隠しつつ、読んでもらう物語に一心に耳を傾ける。その事が後々読者にとってハンナの内面を知る鍵となり、単に恋愛物だとか悲劇だとかという枠を超えた厚みを作品に与えている。

作品の中で彼女は決して素晴らしい人間としては描かれていない。実際にハンナがしてきたことを見ると、エゴで、情欲にまみれ、多くの過ちを犯し、つまらないプライドで自分の生きる道を歪めてしまう。イーディス・ウォートンの 『 エイジ・オブ・イノセンス 』 の中のメイが持つ清純・無垢とは対照的に、非常に俗人的かつ自己中心的である。

一方のミヒャエルはと言うと、良心の呵責と償いの中に生きる人間として作品の中に登場する。突然のハンナの失踪やその後の裁判の行方に対してだけでなく、自分の家族に対しても負い目を感じ続けている彼は、小心者らしいやり方で救いを求めようとする。そんな2人が物語の後半、お互いを利用しあう形で不思議な関係を構築していくことになる。

2人の非日常的な関係を描きながらも、この作品は自分にとって非常に身近なものに思えた。それはあくまで自分に対して忠実に生きるということを選んだハンナに共感を覚えたからかもしれない。また深い後悔と哀惜の中に生きるミヒャエルと自分をかぶらせたこともあるだろう。しかし何よりも、たとえ残酷な結末を迎えることになっても、彼らが彼らであり続けることを選んだということに、人間としての業を見たからだと思う。

この作品は単なる悲恋の話ではなく、人間であることへの賛歌であると、僕は考える。多くの読者はこの意見に同意しないだろう。だが、「 それが何なのよ! 」 と思えるだけの強さをハンナからもらったように感じている。独り言のように、誰からも反論されない小さなブログの世界でしか自分の意見を述べない卑屈さをミヒャエルから受け継いだように。

『 The Reader (邦題: 愛を読む人) 予告編 』

コメント
実はこの作品観たいなと思っていました。
内容が重そうなので、精神状態がいいときじゃないと
駄目そうですね。
今弱ってるから絶対駄目だw
機会があったら、是非観たいと思います。
小説の方がいいのかな。
  • CHELSEA
  • 2009/11/30 11:38 PM
CHELSEAさん

コメントありがとうございます。お元気ですか。

何か精神的に弱っていらっしゃるみたいですが、大丈夫ですか。あまり根を詰めすぎないで、少しはゆっくりする時間も必要ですよ。

この 『 朗読者 』 ですけど、いろんな要素を含んでいるので、読む側の感性次第でどのようにも読めると思いますよ。恋愛小説としても読めなくもないし、戦後ドイツ国民にどのように戦争を向き合うことになったかを考える契機にもなると思います。かなりツライ部分もあるのですが、精神的な負担はそれ程大きくなくて、意外に読めました。

個人的には、先に小説を読んだ方がいいのではないかと思います。映画ではどのように解釈されてどんなふうに脚色されているのか興味があります。よければお貸ししますよ。

ではでは
  • Gです
  • 2009/12/01 2:45 AM
小説買って読みました。
昨日読了してみて、確かに何層もの構造がある小説で、
どこに注目するかによって、感じ方が違うのかなと思います。
一回目読み終えたあとの感想は、人と人との関わりって、
温度差がある場合が殆どなんだなってこと。
そして残酷な環境では人の心なんて麻痺してしまうこと。
その過酷な環境の中で、犯してしまった罪は、
そうでない環境の下であれこれ考えて、
どうこう言えないのではないかってこと。
正義感って何?罪を犯したことのない人間が
それを責めるのは簡単だけど、
罪を犯したことのある人間を愛している人間は
そんな単純には受け止められないこと。
ハンナの生き方は確かに頑なで理解しがたいところ
もあるけれど、彼女は彼女なりの潔さで
自分の罪を償おうとしたのだと思う。
悪い人じゃないと思う。
でももっと違う風に生きることも出来たはずなのに、
人に理解してもらえるよう努力しても良かったのに。
ちょっと自分と似ているなと思いました。
孤独で頑固なところ、諦めが良すぎるところがね。
男の人の手の差し伸べ方もどうなのかな?
彼女の気持ちを尊重しているようで、
逃げているようで、中途半端だよね。
でも彼女のような人にはそういうやり方しか
なかったのかもしれない。
でも踏み込んでいけば、
彼女も変わったかもしれないよね?
分かっているけど、どうしようもないって
それが人間の業なのかもしれないね。
もう少し時間が経ったら、
もう一度読んでみようかと思います。
  • CHELSEA
  • 2009/12/20 2:00 AM
CHELSEAさん

コメントありがとうございます。原作を読まれたようですね。いろいろ感じられたこと・考えさせられることがあったようで、嬉しく思います。

僕のほうは一昨日この作品を観ました。オンラインで観たんですけど、実は思っていたほど心を動かされることはなかったです。原作にほぼ忠実に作られていたので驚きがなかったというのもあるのでしょうが、この作品の要である心の動きがあまり伝わってこなかったです。描こうとしていたんですけど、やたら長くて間延びしてしまったというか、残念でした。

むしろ裁判におけるハンナのシーンが映画では1番心に残りました。ケイト・ウィンスレットがアカデミー賞を受賞しただけのことはあると思います。オンラインで見つけたのは、日本語の字幕はありませんが、英語の練習も兼ねて観てみられてはいかがですか。

また感想を聞かせてくださいね。
  • Gです
  • 2009/12/20 3:18 PM
映画も見てみようと思います。
ケイト・ウィンスレットって美人だなーって
思っていたんだけど、
この映画での彼女の写真とか見る限り、
あんまり美人には見えない。
こんな普通な感じだっけって思ったもん。
演技力なのかな?女優さんてすごいよね。

ケイトといえば、ブランシェットが好き。
「エリザベス」は良かった。
ティルダ・スウィントンも好きだな。
私の好みってこの路線なんだなって改めて思う。
二人似てるよね?
  • CHELSEA
  • 2009/12/22 12:39 AM
コメントありがとうございます。1月にはDVDも発売されるようですので、観られるといいかもしれませんね。上に予告編をつけておきましたので、よかったらチェックしてください。

ケイト・ウィンスレットについては、自分は 『タイタニック』 が嫌いで、むしろそれ以前の 『 乙女の祈り 』 とか 『ある晴れた日に』 とかのイメージが強いので、美人とゆうよりは個性派俳優という感じを持っています。

CHELSEAさんの好みの女優さんは、ひとくせありそうな人ばかりですね。自分もケイト・ブランシェットは好きですけど、ティルダ・スウィントンは 『コンスタンティン』 ぐらいしかしらないです。個人的には、最近だとジェニファー・コネリーが好きかなあ。『砂と霧の家』 や 『ブラッド・ダイヤモンド』 の彼女に惹かれます。
  • Gです
  • 2009/12/23 11:57 AM
予告編貼ってくれてありがとうございます。
観ましたよ。映画本編も是非観てみたいと思います。
 
ジェニファー・コネリーは美少女時代の映画しか
観たことがないです。
今はきっと演技力もあるいい女優さんになっているんでしょうね。
『ブラッド・ダイアモンド』は面白そうだよね。
  • CHELSEA
  • 2009/12/23 9:53 PM
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